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東京高等裁判所 昭和34年(ナ)1号 判決

原告 細井金平

被告 栃木県選挙管理委員会

補助参加人 小田垣健一郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が原告の申立にかゝる昭和三十三年十一月二十四日執行の栃木県下都賀郡壬生町長選挙の当選の効力に関する訴願につき昭和三十四年三月二十四日附でなした裁決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、被告指定代理人は請求棄却の判決を求めた。

原告訴訟代理人は請求原因として、

一、原告は昭和三十三年十一月二十四日執行の栃木県下都賀郡壬生町長選挙の選挙人である。該選挙は開票の結果補助参加人小田垣健一郎が右町長に当選したとして、同月二十八日当選の旨告示せられた。しかしながら原告は右当選の効力に異議があつたので同年十二月九日右壬生町選挙管理委員会に当選の効力につき異議の申立をなしたが昭和三十四年一月六日右申立は棄却せられた。よつてさらに原告は同月十四日被告に対しこれを不服として訴願を申立てたが同年三月二十四日右訴願は裁決をもつて棄却せられ同月二十五日原告にその旨通知せられた。

二、本件選挙における町長候補者及びこれの右裁決によつて認められた得票数は

佐藤鶴七     六、一七一票

小田垣健一郎   六、二二一票

浜野清        二〇五票

小田俊与        二七票

以上有効投票計 一二、六二四票

無効投票       一一七票

以上投票数合計 一二、七四一票

である。

三、小田垣健一郎の右有効得票中には少くとも左の無効票が存在する。

(1)  本件投票用紙等検証の結果中写真4.5.8.9.10.11.12.21.22.23.50.51.52.53.54.55.57.58.59.60.61.62.63.64.65.70.71.72.84.148.172.173.174.175.176.208.212.213.215.239.240.241.244.245.246.247.248.249.287.288.292.308.309.310.311.312.313.314.315.316.317.321.の六十二票の各投票には小田健一郎又はこれと同視すべき記載を見るのである。本件選挙には小田垣健一郎の外小田俊与が立候補しているので、右各投票は小田俊与の姓である小田と小田垣健一郎の名である健一郎との混記であつていずれの候補者に投票されたか不明であるから無効というべきである。この理由は被告が前記写真334.の「佐藤けん一郎」と341.の「さとうけん一郎」とが候補者佐藤鶴七の姓と小田垣健一郎の名との混記であるとして無効とし、又前記写真342.の「小田垣俊与」と343.の「おだがきとしよ」を小田垣健一郎の姓と小田俊与の名との混記であるとして、無効と判断したことと何ら異るところはないのである。しかるに被告がひとり小田健一郎又はこれと同視すべき投票を小田垣健一郎の有効得票と認めて原裁決に及んだことは明らかに公職選挙法第六十八条第三号第七号の解釈を誤つたものである。

この点に関し被告は小田健一郎又はこれと同視すべき投票は小田垣健一郎の垣を書落したものであり、このことは小田俊与が積極的に選挙運動をしなかつたことから推測できると主張するが、投票の効力を判断するには選挙運動が積極的に行われたか否かを基準とすべきではなく投票の記載自体のみによることを要し、従つて被告の右主張は失当である。加うるに小田垣健一郎は栃木県下の旧家として著名人であり、過去において栃木県議会議員選挙に数度立候補して当選したこともあるのみならず、小田垣健一郎派は本件選挙において立会演説、街頭演説その他あらゆる機会に選挙人に対し候補者たる小田と小田垣とを間違えないようにと呼びかけた事実に徴しても、前記小田健一郎なる投票が小田垣に対する投票とは考えられない。更に日本共産党員又はその同調者が町内を混乱させる目的をもつて、候補者の氏名を混記した投票をした事実も軽視し得ない。却つて小田俊与は昭和三十四年六月施行の参議院議員選挙に際し全国選出議員候補者となり壬生町において本件選挙の得票数二十七票を上廻る九十票を得ているのであつて、かゝる事実より推測すれば本件選挙における小田健一郎又はこれと同視すべき投票中には小田俊与に投票する意思をもつて記載されたものが相当数存するものと思われる、かような諸事情を考慮すれば小田健一郎及びこれと同旨の投票は二名の候補者の氏名を記載したもので無効と解すべきである。

(2)  前記写真中3.6.16.19.20.26.27.28.29.30.31.32.37.43.46.47.59.69.79.80.81.93.94.97.98.99.100.101.102.103.104.105.106.111.113.115.117.118.120.126.129.131.133.135.139.141.146.157.168.177.179.183.187.204.205.206.227.230.234.236.237.238.254.255.265.268.278.281.282.285.304.306.328.329.の七十四票には、候補者の氏名の上、中、下又は横に単に誤記の抹消とは見られない意味不明のしるしが書いてある。特に番号177.の如きは、一旦これに「石塚サン」と記載して後これを抹消したことが明かであつて、これは小田垣派の石塚運動員の依頼による投票なることがうかがわれ、番号168.には候補者の氏名欄に認印をして斜線をひいてある。

よつて右七十四票は他事記載として無効と解すべきである。

(3)  前記写真中13.14.18.33.35.36.40.77.78.82.83.85.87.88.89.121.124.125.126.132.143.147.150.151.157.158.159.161.162.164.170.181.182.185.190.191.192.193.194.195.196.197.198.199.207.210.211.216.217.220.221.222.224.225.226.242.250.252.253.266.275.280.285.286.296.297.298.299.300.318.319.328.331.の七十三票はその記載自体からして何人に投票したか不明であるから無効である。

(4)  前記写真中77.89.190.191.192.193.194.の七票は「おだき」、「をだき」、「小田き」等とあつて、右は小田俊与の姓と浜野清の名のうち「き」とを混記したものとして無効と解すべきである。

(5)  前記写真中335.乃至340.の六票には佐藤昌二又はこれと同趣旨の記載があるが、本件選挙においては佐藤鶴七の外佐藤又はこれと類似の候補者はなく、佐藤昌次は佐藤鶴七の長男であるから右六票は被告の裁決した如く無効票ではなくて佐藤鶴七に対する有効投票と解すべきものである。

(6)  被告主張事実中昭和三十年四月二十三日施行の栃木県議会議員選挙において小田垣健一郎が立候補したこと、そのとき小田姓の候補者がなかつたことは認める。

四、叙上の如く被告によつて小田垣健一郎に対する有効投票と認められた中には、小田健一郎又はこれと同視すべき投票として無効のもの六十二票、他事記載として無効のもの七十四票、何人に投票したか不明にして無効のもの七十三票、小田俊与と浜野清の名を混記したものとして無効のもの七票の無効投票があり、他面被告によつて佐藤鶴七に対する投票として無効と認められた中に有効と認むべきものが六票ある。果して然らば小田垣健一郎への有効投票は佐藤鶴七に対する有効投票より少いことは明かであるから、壬生町長選挙の当選の効力に関し被告のなした訴願裁決は取決されるべきものであると述べ

被告代理人は答弁として請求原因事実中一、二の事実は認める。

三(1)の事実中65.148.249.を除くその余の投票が小田健一郎又はこれと同視すべき投票であることは認める、しかしながら投票自体から考察すると小田垣健一郎と小田俊与の各氏名は六字と四字とからなり、氏の類似性は著しいが名は類似性がなく、選挙人は通常一人の候補者に投票する意思をもつてその氏名を記載するものであるから、右小田健一郎又はこれと同視すべき投票はいずれも候補者小田垣健一郎にもつとも近い記載として同人に対する投票というべきである。このように解することは小田垣健一郎が壬生町における著名人であり、小田俊与が郵送による立候補届出をなしかつ選挙運動をしなかつた本件選挙の実状から見ても、肯定される。更に昭和三十年四月二十三日施行の栃木県議会議員選挙においては、小田垣健一郎が立候補し小田姓の候補者はなかつたのに拘らず現在の壬生町の区域における投票中「小田健一郎」が三十四票、「小田ケイイチロウ」が二票、「小田健一」が十票「小田健」一票存したところ、右四十七票の投票はいずれも小田健一郎又はこれと同視すべき投票であつて、結局小田垣健一郎への投票であつたのである。その外本件選挙では難しい漢字を書き馴れない者が多数投票したところ、小田垣健一郎の「垣」という字は一般に書きにくい字であるため、「垣」の字を抜いた投票が多かつたものと思われる。要するにこれらの事実から考察すれば、小田健一郎又はこれと同視すべき投票はいずれも小田垣健一郎の垣の字を落したものとみて同人の有効得票とすべきである。

右の点に関し、原告は昭和三十四年六月施行の参議院全国選出議員選挙において小田俊与候補の壬生町における得票数が九十票であることを理由として、小田健一郎又はこれと同視すべき投票を無効であると主張している被告としてはこの得票数はみとめるが参議院全国選出議員の選挙と本件の如き町長選挙とは全く性格を異にし得票数の多寡のみを比較して選挙人の意思を推測することはできない。しかも右参議院議員選挙直前本訴が提起せられ小田俊与の名前が本件選挙人の間に喧伝された結果、右参議院議員選挙における同人への投票が九十票にも達したものと解される。日本共産党又はその同調者が壬生町を混乱させるため原告主張のような候補者氏名の混記の投票をしたとの事実は否認する。

なお65.は記載が拙劣なところから考えれば垣を書く意思でこれを書き誤りかつ垣と健とを逆に記載したものと認められ、148.249.はその筆跡から判断し「が」の脱字とみるのを相当とするから、これらはいずれも小田垣健一郎の有効投票とすべきである。

原告が三(2)において他事記載として無効であると主張する投票中、59.は候補者の氏名以外は何も記載されていない。残余の投票は書誤などを抹消するためのこん跡のあるものか又は氏名か氏又は名を二重に記載したものであるが、いずれも有意の他事記載ではない。177.は明白に一方は抹消されているのであつて決して他事記載ではない。168.は本件選挙の選挙立会人である鈴木武雄が誤つて自己の認印を押しその誤に気づいて直ちにその上に鉛筆で斜線を引いたものであるから、有意の他事記載ではない。

原告が三(3)において何人に投票したか確認できないと主張する投票は誤字脱字の類を含むものであつて、その中には記載拙劣不正確なものがあるにしても、その記載に徴し、いずれも候補者の一人である小田垣健一郎への有効投票と解し得るものである。

原告が三(4)において主張の「おだき」及びこれと同旨の投票はその稚拙な文字とその運勢筆勢からして文字を書くことに不馴れな者の記載であることが容易に推測しうるのみならず、昭和三十年四月二十三日施行の栃木県議会議員選挙において現在の壬生町の区域における投票中に「小田キ」と記載した投票が七票あつたことに徴し、候補者中その氏名が最もこれに類似する小田健一郎の氏を記載する意思ある者が「ガ」又は「が」を脱落して記載したものと解し同人の有効投票と認めるべきであつて、これをもつて小田俊与と浜野清との混記投票というを得ない。

原告が三(5)において佐藤鶴七への投票であると主張する投票は、これに記載せられた「佐藤昌二」なる者が佐藤昌次という実在の人物であつて、しかも昭和二十六年以来三回にわたり栃木県議会議員に壬生町を含む下都賀郡選挙区から立候補して当選し、現に同議員の職にあつて壬生町においてはきわめて著名の人物であることと、佐藤鶴七を指称するにその子息である佐藤昌次の名をもつてする特段の事情がなく、鶴七と昌次とはその文字と音とを異にすることとに徴し、佐藤鶴七の誤記とは認められないから無効投票というべきである。

と述べ、

補助参加代理人は、

「参加人は本件選挙に立候補し壬生町長に当選したものであるが、原告は右当選を無効として本訴に及んだ。よつて参加人は本訴の結果につき法律上の利害関係を有するから、被告の訴訟を補助するため参加の申出をする。被告の原裁決によると佐藤鶴七の有効得票数は六千百七十一票というにあるが、その中には他事記載による無効投票が相当数存在する。」

と述べた。

(証拠省略)

理由

一、原告主張の請求原因中一、二の事実は当事者間に争がない。よつて次に原裁決において小田垣建一郎の有効得票とされた投票中、原告が無効であると主張するものにつき順次判断する。

二、原告が前記請求原因三(1)において主張する投票の効力について検討する。

(A)  右のうち本件選挙の投票の検証写真65.148.249.の投票(以下単に番号のみをもつて表示する)につき、原告は小田健一郎への投票であると主張し被告は小田垣健一郎への投票であると主張する。よつて按ずるに右検証の結果によれば、右65.は「小田健一郎」と判読しうるが「健」と「一」との間の字は判読できないと認められる(その効力については次段に判断する。)。次に右検証の結果によると、148.は「小田キイロウ」、249.は「小田キケイチ」と判読できるので、いずれも選挙人が「小田ガキケンイチロウ」と記載すべき意思をもちながらそのうち若干の脱字を見るに至つたと認められるから右二票は小田垣健一郎への投票として有効と解すべきである。

(B)  原告主張の右148.249.を除く残余の六十票につき按ずるに、右検証の結果によれば、右六十票中左表下欄記載の投票には上欄記載のように記載してあることが認められる。

(1)  小田健一郎    5.9.23.51.52.55.57.59.60.61.62.63.70.71.172.173.175.176.212.239.240.245.246.247.248.292.308.309.313.314.315.316.317.321.

計三十四票

(2)  小日健一郎    244.

(3)  174.

(4)  小田建一郎    10.65.(65.については前段でも判示した。)

(5)  53.287.310.

(6)  311.

(7)  小田一郎    64.213.215.

(8)  小田ケン一郎   58.312.

(9)  小田けん一郎   21.50.

(10)  小田ケン一ロー  8.

(11)  小田けん一ロ   22.

(12)  小田けんいちろ  4.

(13)  小田ケ一郎    11.

(14)  小田けん一ち   288.

(15)  小田けん一    12.

(16)  小田けん一ー   54.

(17)  小田け一     241.

(18)  小田ジイチロ   84.

(19)  208.

(20)  大田健一郎    72.

これらの投票と小田俊与の氏名の類似性を見るに氏は(2)(20)を除きいずれも全く一致するが、名は発音が著しく相違するのみならず、(1)(3)乃至(7)は漢字で三字であり、(8)乃至(19)は仮名と漢字まじりで二字乃至五字をもつて記載せられ、いずれも俊与又は「トシヨ」「としよ」と著しく相違する。これに反しこれらの投票と小田垣健一郎との氏名の類似性を見ると、氏は(2)(19)(20)を除きその余は「垣」の有無という相違があり(2)は「日」と「田垣」が異り、(19)は「ガキ」の有無という相違があり、(20)は「大田」と「小田垣」との差が存するのであるが、名について見ると(1)(2)(20)は全く一致し(3)は健が重複し、(4)乃至(7)は「健」の字を書きまちがえたと解すべく、(8)乃至(10)は仮名まじりであるが発音において全く一致し、(11)乃至(19)はいずれも「健一郎」を仮名まじりで書いた場合に比し一、二字欠けているか又はまちがえていると認められる。結局右(1)乃至(20)の投票は小田俊与及びその他の候補者の氏名に比し小田垣健一郎の氏名により著しく酷似しているものと認むべく、これらは小田垣健一郎に投票する意思をもつて記載せられたものであつて、これと字体上発音上相違する点はいずれも選挙人が投票の際誤記したものというべきである。

右の点に関し、原告は小田垣健一郎は栃木県における著名人であり過去において栃木県会議員選挙に数度立候補して当選したことがあるばかりでなく、本件の選挙において小田垣派は候補者の小田と小田垣とを間違えぬよう選挙人に呼びかけていたと主張し、かかる事実は証人大栗丹波、中川広富、黒川徳治、中村義市の証言によつて認め得るけれども、他面右証人黒川、中村及び証人葭葉藤蔵の証言を綜合すれば、小田俊与は壬生町に居住するものでなく、又同町と何等特別の関係あるものでなく、本件選挙において壬生町にポスターもはらず又選挙運動もほとんど行わなかつた事実を認め得、又昭和三十年四月二十三日施行の栃木県議会議員選挙に小田垣健一郎が立候補した際、下都賀郡選挙区では「小田」という姓の候補者がなかつたのに拘らず(この事実は当事者間に争がない)現在の壬生町に該当する当時の壬生町及び南犬飼村(旧時の壬生町と南犬飼村が合併して現在の壬生町になつたことは当裁判所に顕著なところである)の投票中小田健一郎又はこれと同視すべき投票が数十票あつたことは、右選挙の投票に対する検証によつて明かであり、かかる事実に照すときは、前記原告主張事実によつても、到底前記の投票に関する認定を左右し得ない。又原告は日本共産党又はその同調者が本件選挙において、候補者の氏名を混記せしめたと主張するけれどもこの点に関する証人鈴木秀三の供述は措信し難く、その他右事実を認めるに足る証拠はない。そして又小田俊与が昭和三十四年六月施行の参議院議員選挙に際し、全国選出議員候補者となり壬生町において九十票を得たこと(この事実は当事者間に争がない)の一事によつて本件選挙についての前記投票についての認定を左右し得ないことはいうを俟たない。

三、原告が請求原因三(2)において主張する投票の効力につき検討する。右検証の結果によればこの七十四票中左表下欄記載の投票には同上欄記載のように判読しうる記載のあることが認められる。

(1)  「大」又は「ナ」と書いたものの如く、これを抹消しつゞいて

(イ)  「小田垣健一郎」と記載したもの37.101.179.254.329.(但329.は「ナ」を抹消していない。)

(ロ)  「小田垣」と記載したもの 29.

(ハ)  「小田但」と記載したもの 268.

(ニ)  「大田垣健一郎」と記載したもの 285.

(ホ)  「おだがきけんいちろう」と記載したもの 93.

(2)  「小」と書いたものの如く、これを抹消しつゞいて

(イ)  「小田垣健一郎」と記載したもの 46.80.98.205.

(ロ)  「小田垣」と記載したものと認められるもの 120.234.

(3)  「一」と書きこれを抹消しつゞいて

(イ)  「小田垣健一郎」と記載したもの 129.

(ロ)  「小田垣建一郎」と記載したもの 131.

(ハ)  「小田がきケン一郎」と記載したもの 105.

(4)  「ホ」と書きこれを抹消しつゞいて「小田垣健一郎」と記載したもの 265.

(5)  「健」と書きかけたものの如く、これを抹消しつゞいて「小田垣健一郎」と記載したもの 43.135.

(6)  「オ」のような字を書いて抹消しつゞいて「オダガキケンイチロー」の記載したもの、なおこの投票には他に上方に点二ケ所下方に横線一本がある 139.

(7)  「垣」と書き抹消し行を改めて「小田 ケン一郎」と記載したもの 282.

(8)  「」と記載したもの 328.

(9)  「を」と書き行を改めて「おだがきけいちろ」と記載したもの 69.

(10)  「小田垣健一郎」と記載した外田の左側に「口」か「中」のような字を書いて抹消した記載のあるもの 32.

(11)  「小田垣健一郎」と記載した外「小田」の間に「甲」と書いて抹消したような字のあるもの 204.

(12)  「おだがきけんいちろう」と記載した外「だ」の左側に「た」と似た字を書いて抹消したもの 97.

(13)  「オ一ダガキ」と記載して「一」を抹消したもの 230.

(14)  「小田垣健一郎」と記載して垣の左又は右もしくは上に「垣」又はこれに似た字を書きこれらを抹消したもの 26.27.28.31.99.100.115.133.141.187.238.306.

(15)  「小田垣」と記載した外「田」と「垣」との中間に「垣」と書いて抹消したもの 6.236.

(16)  「小田がき」と記載した外「田と「が」の間に「桓」と書いて抹消したもの 106.

(17)  「小田がきけん一郎」と記載した外「がき」の左側に「垣」の一部を書いて抹消したもの 47.

(18)  「小田ガキ建一郎」と記載した外「ガキ」の右側に「垣」及び「健」に似た字を書いて抹消したもの 117.

(19)  「小田垣健一郎」と記載した外「田」と「垣」の中間に「」と「健」の左側に健に似た字を書いて抹消したもの 113.

(20)  「小田健一郎」との記載して「田」と「健」の間に「垣」を挿入した外欄外に小田垣と改めて記載したもの 255.

(21)  「小田健一郎」と記載して「田」と「健」との間に「亘」に似た字を書いて抹消した外これと一部重複して左側に「垣」右側に「ガキ」と記載してあるため結局三字がやゝ不明瞭となつているが、このほか欄外に「オダガキケンイチロウ」と記載してあるもの 281.

(22)  「小田垣健一郎」と記載してある外「垣」と「健」との中間又は「健」の側にこれに以た字を書いて抹消してあるもの 3.20.81.237.278.

(23)  「小田垣けん一郎」と記載してある外「け」の左側に「健」に似た字を書いて抹消してあるもの 30.

(24)  「おだがきけ一ろ」と記載して「き」と「け」の中間に確認しがたい字を書いて抹消してあるもの 94.

(25)  「小田垣ケン一ロー、」と記載して「垣」と「ケ」の中間に「け」と似た字を書いて抹消したもの 103.

(26)  「小田垣」と記載してその下に「健」に似た字を書いて抹消したもの 111.227.

(27)  「オダカキケンイチロー」と記載して「ケ」の上に「ケ」に似た字を書いて抹消したもの 206.

(28)  「小田垣」と記載してつゞいて「ケ一郎」と書きこれを抹消したもの 126.

(29)  「おだがきけんいちろう」と記載して「いち」の左側に「一」に似た字を書いて抹消したもの 16.

(30)  「小田垣健一郎」と記載して「郎」の左下方に判読し難い字と郎に似た字とを書いて抹消したもの 104.

(31)  「小田垣健一郎」と記載した下に「一」と似た字を書いて抹消したもの 146.

(32)  「小田恒健一郎〈手書き文字〉」と記載して「一郎」の右側に「一」か「○」か「た」か判読できない字と「郎」とを書いて抹消したもの 304.

(33)  「ヲダガキケンイチ」と記載してある外「ヲ」の上に何か字を抹消した如き跡と「ン」の右側に「ン」と書いて抹消したもの 19.

(34)  「小田垣健一郎」と記載してある外その左側に何か字を書いたが抹消してあるため判読できないもの 79.102.(一字は松と読みうる)118.

(35)  「お田垣チンイチ」と記載してある外欄外に「チンイチ」と書いたもの 157.

(36)  「小田垣建一郎」と記載した外「小田垣」の左側に「石塚サン」と書いて抹消してあるもの 177.

(37)  「おだがきけん一ロう」と記載してある外「けん」の左側に「金」及び何か一字を書いて抹消したもの 183.

(38)  「小田健一郎」と記載した外欄外に「一」なる記載か用紙の破れ目か判然としない跡あるもの 59.

(39)  欄外に「オダガキキ一」と記載せられ欄内に「鈴武」という押印があつてこれが斜線で抹消されているもの 168.

次にこれらの投票の効力につき判断すると、右のうち(20)(21)(35)(36)(38)(39)を除くその余の投票はいずれも小田垣健一郎に投票する意思をもつて同人の氏名を記載するに当り、字を書きちがえたことに気づきこれを抹消したもの或は当初書いた字体がはつきりしないので書改めたため抹消したものと認められ、(6)の点及び横線はその位置からみて選挙人が誤つて記載したものと認めうる。これらの投票は特に意識的に何事かを記載したものとは認められないから無効と解すべきではない。(20)(21)(35)も小田垣健一郎に投票する意思をもつて欄内に一旦前示のような記載をしたがこれのみでは或は不明瞭な記載とせられることを恐れ、自己の投票意思を明確ならしめる目的をもつて欄外に前記のように記載したものと認められ、なお右の(35)の「チンイチ」という記載は字体から見て「ケンイチロウ」の誤記と認められるから、これらを他事記載ありとして無効と解すべきではない。(38)は欄外にそのような記載があるのか用紙が破損しているのか必ずしも明らかでなく他事記載があるとはいえない。(39)は証人鈴木武雄の供述によれば、同人が本件選挙の開票立会人として投票の効力につき意見を表明する際誤つて自己の印顆をこれに押印したことが認められるから、右押印は本投票を無効ならしめない。ただし(36)の「石塚サン」なる記載はたとえ抹消してあるにせよ、単なる書損とは認め難く、他事記載としてその投票は無効と解すべきである。

四、原告が三(3)(4)において主張する投票の効力について判断する。

検証の結果によれば左表下欄記載の投票はいずれも書体拙劣であつて文字をよく知らない者が記載したことが明らかであるが、これは上欄記載のように判読しうる。

(1)  小田垣健一郎   147.

(2)  「小田垣」又は「おだがきけんいちろう」 125.

(3)  大田垣健一郎   14.33.36.88.285.

(4)  大田垣      13.87.195.196.197.199.210.211.

(5)  大田恒      198.

(6)  大田かキキ一   35.

(7)  大垣建一郎    182.

(8)  大垣一郎    181.

(9)  大亘健一郎    143.

(10)  小垣健一郎    18.83.225.

(11)  小垣ケン一郎   226.

(12)  小垣一郎(「垣」と「一」との間の字は「ケ」に似ている) 300.

(13)  小垣一郎(「垣」と「一」との間の字は判読できない。) 132.

(14)  296.

(15)  小垣       297.

(16)  185.

(17)  オガキ      299.

(18)  オグガキ     124.216.217.242.280.

(19)  オバガキ     158.

(20)  ラタガキき一(「一」の下の字は判読不能) 159.

(21)  オカキ(「オ」と「カ」の間の字は判能できない) 161.

(22)  おタカキ     220.

(23)  おグガキ     162.

(24)  小田垣垣     78.

(25)  小田  85.

(26)  小田(その下の文字は判読できない) 126.

(27)  小田場健一郎   151.164.

(28)  小田  253.

(29)  小田亘      266.

(30)  小田  298.

(31)  小田恒健一郎   275.

(32)  小田健一郎(「田」と「建」との間の字は判読できない) 286.

(33)  小田場一郎(「場」と「一」との中間の字は判読できない) 252.

(34)  ヲダガキ(「ダ」と「ガ」の中間に「カキ」と書いて抹消してある) 319.

(35)  おだかサうう(サ」と「う」、「う」と「う」の間の字は判読できない) 331.

(36)  オダダキ        121.

(37)  小田カイキ 328.

(38)  小田キ         194.

(39)  小田キけいちろ     250.

(40)  オダキ         192.

(41)  オダキケンイチロ    207.

(42)  ヲダキ         89.

(43)  おダきけん一      222.

(44)  おだき         77.190.193.

(45)  おだきけいし      224.

(46)  おたきけん一      221.

(47)  をだキ         191.

(48)  おたが         318.

(49)  小田一(「田」と「一」との間の字は判読できない) 40.

(50)  小田がきいちろ  150.

(51)  お田垣チンイチ(欄外に「チンイチ」と書いてある) 157.

(52)  おたがきゆんいちろう 170.

(53)  おだがきけん一(「け」と「ん」は重つている) 82.

次にこれらの投票の効力について按ずるに、これらの投票が前示のように書体拙劣なことを考慮しつゝ四名の候補者の氏名の発音及び字体のいずれと最も酷似するかを検討すれば、(1)(2)は小田垣健一郎への投票であり、(3)(4)は同人の氏又は氏名を書く意思がありながら「小」を「大」と書き誤つたものであり、(5)も同様の意思あるにかかわらず「小」「垣」をそれぞれ「大」「恒」と書き誤つたものであり、(6)も同様の意思がありながら「小」を「大」と「ケン一ロー」を「キ一」と書き誤つたものであり、(7)乃至(9)も同様の意思があるにも不拘「田」を遺脱し就中(7)(8)は「健」を(9)は「垣」を各書き誤つたものであり、(10)乃至(16)も同様の意思がありながら、「田」「ン」「健」「郎」「健一郎」等の字を遺脱し又は「田」と「日」を書きちがえたものであり、(17)乃致(23)は「小田垣」を仮名で記載するに当り二字目の「ダ」を遺脱したか書きまちがえたものであり、(24)乃至(33)は前記の見地のほか三字目が「垣」に類似していることから推察すれば同様の意思をもちつゝも「垣」を書き誤つたものであり、(34)は同様の意思がありながら「ヲダカキ」と書いて誤に気づき訂正したものであり、(35)乃至(37)は同様の意思がありながら「ガキ」又は「がき」又は「けんいちろう」を正確に書けなかつたものであり、(38)乃至(47)は同様の意思がありながら「小田垣」を漢字又は仮名で記載するに当り三字目の「ガ」又は「が」を遺脱したものというべく、これをもつて小田俊与への投票又は小田垣健一郎と浜野清との混記とはいえず、(48)は同様の意思がありながら「おだがき」の「だ」の濁点と「き」を遺脱したものであり、(50)も同様の意思がありながら「けん」を遺脱したものであり、(51)も同様の意思があるにも不拘「ケンイチロウ」を「チンイヂ」と書き誤つたので自己の意思を明確ならしめる目的をもつて欄外にまた「チンイチ」と書いたものであり、(52)も同様の意思がありながら「けん」を「ゆん」と書き誤つたものであり、(53)も同様の意思をもちつゝ「郎」を遺脱したものであると認められる。たゞし(49)は小田垣健一郎への投票か小田俊与への投票か確認できないから無効と解するのほかはない。

五、以上説示のとおりであるから本件選挙において原告が無効であると主張する投票は前記検証写真40.177.を除きその他はすべて小田垣健一郎の有効投票と解すべきである。原告提出の証拠を以ても右認定を左右し得ない。

六、原告が請求原因三(5)において主張する投票の効力につき按ずるに、前記検証の結果によれば、これらにはいずれも佐藤昌二又はこれと同旨の記載を見るところ、佐藤鶴七の子に佐藤昌次なる者が実在することは当事者間に争がなく、同人が昭和二十六年以来三回にわたり壬生町を含む栃木県下都賀郡選挙区から栃木県議会議員に立候補当選し現にその職にある著名人物であることは原告の明らかに争わないところであるから、これらの投票はいずれも実在の佐藤昌次に投票する意思をもつて前記のように記載せられたものというべきであつて、佐藤鶴七に対する投票というべきではない。

七、よつてその余の点につき判断するまでもなく小田垣健一郎を当選者として原裁決は正当であつて原告の主張は理由がなく棄却すべく、訴訟費用は原告に負担せしめて主文の通り判決する。

(裁判官 松田二郎 猪俣幸一 沖野威)

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